コラム・
インフォメーション
-
相手方の特定 ─ どこまで進め、どこで止めるか
浮気・不倫の調査で、相手方の特定はご依頼者から強くご希望される事項のひとつです。誰なのか、どういう方なのかが分かることで判断材料が整い、後の交渉や手続きを進めやすくなります。
2001年からこの仕事を続けるなかで、相手方の特定は、調査会社の判断力と倫理観がもっとも表れる領域だと感じてきました。本稿では、特定をめぐる構えを整理します。
「特定する」目的を最初に確認する
相手方を特定したいというご希望には、いくつかの目的が考えられます。相手方にも慰謝料を請求する準備なのか、ご自身が事態を正確に把握しておきたいのか。目的によって、必要な特定の精度は変わります。慰謝料請求のためなら、訴状に書ける程度の情報が必要になりますし、ご自身の把握のためなら輪郭が見える程度で足りることもあります。
そこで、ご相談の段階で「何のための特定か」を伺い、その目的に応じた必要最小限の範囲で進める設計を組みます。必要以上に踏み込まないことが、結果としてご依頼者を守ることにもつながります。すべての案件で身元の詳細まで踏み込む必要があるわけではない、というのも大切な視点です。
接近のさじ加減
相手方への接近は、調査現場の判断のなかでも特に難しいものです。遠ざかりすぎれば特定が不十分なまま終わり、近づきすぎれば相手方の警戒を呼んで調査全体を頓挫させかねません。最適な距離は現場の状況によって変わるため、その都度、経験に基づいて見立てます。具体的な進め方は案件ごとに個別に判断する領域ですので、ここでは詳細を控えます。
相手方の生活への踏み込みは控える
特定を進める過程で強く意識しているのが、相手方の生活そのものへ過度に踏み込まないという姿勢です。相手方は、たとえ不貞関係の当事者であっても、ご自身の生活と人格を持つ一人の方です。その方のご家族や職場、近所の方々を巻き込んでまで情報を集めることは、原則として行いません。特定の精度を上げるためであっても、超えてはならない線がある。これが私たちの基本姿勢です。
ご依頼者の「行動」を抑える役割
相手方が特定された段階で、ご依頼者の側に強い感情が生まれることがあります。「直接会って確認したい」「自宅や職場に連絡したい」というお気持ちです。けれども、直接の接触はご依頼者ご自身に法的なリスクを生み、相手方からの逆の請求につながりかねません。
情報を入手したことと、その情報に基づいて行動することは別の段階です。行動は弁護士の先生のご助言を得てから、と区切ることで、ご依頼者の立場を守れます。特定を担う調査会社として、私たちは「特定はしても、行動には踏み出さない」という線をご一緒に守る役割も担っていると考えています。
「特定しない」という選択肢
調査の組み立てによっては、相手方を積極的には特定しない、という選択肢もあります。ご依頼者の目的が配偶者との関係の整理であって相手方への請求を考えていない場合や、特定にかかる費用と労力に見合わないと判断される場合です。これは手抜きではなく、必要のない作業を組み込まないという積極的な判断です。特定の必要性と、かかる費用・労力を天秤にかける。これも調査会社が果たすべき役割の一部です。
特定後の運用ルール
相手方が特定された後は、情報の扱いについていくつかのルールを共有します。ご相談を共有していない方には伝えないこと。SNSや公開の場で発信しないこと。怒りや感情のなかで書き込んだ内容が、後に名誉毀損やプライバシー侵害として問題になることがあります。そして、情報を「使う」場面は必ず弁護士の先生のご助言のもとで判断すること。こうした運用ルールを共有しておくことが、ご依頼者の立場を守ります。
結びに
相手方の特定は、調査会社の倫理観が表れる場面です。目的に応じた精度を選び、相手方の生活への踏み込みは控え、ご依頼者の行動を抑える役割も担い、特定しないという選択肢も含めて検討する。誰のために、何のために、どこまで進めるか。この問いを常に手元に置いて、現場の判断を重ねていきます。